2024.12.23
「株式の保有者」=「株主」の権利は「財産権」と「経営権」。自社株式の大半を経営者が保有している中小企業では、これらを普段の経営で意識することは少ないかもしれませんが、特に事業承継時には重要になります。自社株式の贈与を行う前におさえておきたいことをこ紹介します。
財産権とは、株を保有していることで得られる「お金を得られる権利」です。具体的には、株の配当や会社清算時に残余財産を受け取る権利のことをいいます。
経営権とは、①会社の経営方針・事業内容を決定する②役員の任命や従業員の異動等、会社の組織体制を決定する③会社の資産の活用・管理について決定する_など、株主総会の決議を通して「会社全体の経営判断を行える権利」をいいます。
とりわけ経営権と株式の保有割合(持株割合)とは密接に関連があり、持株割合が高いほど行使できる権利が増し、経営への影響が大きくなります(図表)。そのため、事業承継を考える場合、「いつ」「どのタイミングで」
「どのくらいの株式を渡すのか」について、財産権と経営権を考慮しつつ、長期的な展望で後継者に渡す(贈与する)ことが重要です。
上場していない中小企業の株式にも株価はあります。
相続や贈与の場合、「財産評価基本通達」に従って株価を算定します。その算定方法は会社規模によって異なりますが、一般的には、時価評価した会社の純資産額のほか、類似業種の株価を基礎にして、1株あたりの配当金や利益等のさまざまな要素を加味して算定されます。単年度の損益が赤字であったり、資本金が少額であっても、含み益その他の要因により、株価が思いのほか高くなることがあります。株価が高すぎると、後継者の税負担が重くなってしまうことがあるため、適切な対策を行うことも必要になります。
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次の項目に1つでもあてはまる場合は、自社株評価を行うことをおすすめします。
- 社長(または会長)が自社株式の大半を保有している。
- 貸借対照表の「純資産の部」の合計が1億円を超えたり、「資本金」の5倍以上になったりしている。
- 会社で所有している土地や有価証券等があり、それらの含み益がある。
- ここ数年、自社株評価をしていない。
平成2年の商法改正以前は、株式会社の設立には7人以上の発起人(株主)が必要でした。
そのため、創業者が設立資金を100%出資しても、家族や親族等の名前を借りて株主になってもらうケースがありました。このような「名義株」は、特に社歴の長い会社で見られることがあるので注意しましょう。
株主名簿や法人税申告書別表二「同族会社等の判定に関する明細書」を確認し、名義株主の記載がある場合には、その発生経緯を確認し、名義株主の合意を得て本来の出賓者へ株を移転させるなどの対応が必要です。
また、経営権をめぐるトラブルを避けるために、経営に関わらない親族等に分散された株式の買い取りなども検討しましょう。
譲渡制限の有無は、定款で定める項目で、登記事項証明書で確認することもできます。
中小企業では株式譲渡に関する制限条項を設けているケースが多く、株式の異動がある場合には取締役会等での決議・承認が必要になります。きちんと議事録で決議・承認がなされた旨を記録しておくようにしましょう。
株式の贈与や譲渡後には、株主名簿を最新のものに書き換えることも必要です。
自社株式の贈与には時間がかかることも慎重に、計画的に検討しましょう
多くの場合、事業承継における自社株式の贈与は、①暦年課税制度②相続時精算課税制度—で行います。また、令和9年12月31日までは、「特例事業承継税制」を活用することも可能です。
複数年にわたる贈与は、毎年、自社株式の評価を行い、計画性をもつで慎重に進めることが必要です。自社株式の評価・贈与については、当事務所までご相談ください。
<参考>
「特例事業承継税制」の「役員就任要件」に注意!
中小企業の場合、一定の要件のもと、事業承継時の贈与税・相続税負担が「実質ゼロ」となる「特例事業承継税制」が活用できます。時限措置である同税制の活用にあたっては、次の期日を意識しておきましょう。@「特例承継計画」の掟出:令和8年3月31日まで
@「特例事業承継税制」適用の贈与・相続等:令和9年12月31日までこれらに加え、贈与の場合には、後継者は、役員就任後3年を経過していることが要件とされています。したがって、「特例事業承継税制」適用期限(令和9年12月31日)から逆算すると、贈与の場合、後継者は、令和6年12月31日まで
に役員に就任していることが必須要件となります(相続の場合には後継者の役員就任は相統開始前まで)。
この「役員就任要件」は、令和7年度税制改正において緩和される可能性がありますが(経済産業省「令和7年度税制改正に関する経済産業省要望[概要]」令和6年8月)、後継者が経営ノウハウを吸収し、安定した経営を行うには相応の時間が必要です。スムーズな事業承継のためにも、後継者には早めに役員に就任してもらうことが重要になるでしょう。